【国指定重要無形民俗文化財】
   壱 岐 神 楽

壱岐神楽の起源

 壱岐神楽は古い伝統と歴史をもつ神事芸能で、他の地方の神楽組とか神
楽師等の奏する神楽とは違って、神楽舞も音楽も、神職ばかりで奏され
る、きわめて神聖視され信仰されている貴重な文化財であり、
昭和62年
1月8日、国の重要無形民俗文化財の指定
を受けた。

 
神楽の起源南北朝(1336〜1392)の頃だといわれている。壱岐郡芦
辺町箱崎・八幡神社の社家(吉野家)に伝わる古文書の中に、「永享7年
(註・1435)11月吉日、神楽舞人数之事」として25人の人名をことを記す
文書があり、室町時代の初期にはすでにおこなわれていたことを知ること
ができる。この当時の神楽は現在行われているような整ったものではな
く、その勧法も両部習合の勧法であったといわれている。その後、寛文初
年に唯一神道の式に改められ、以来年次を経るにしたがって神楽歌も庶民
に理解できるように意を用い、神楽舞の手振りなども逐次改訂修補を加え
られ、現行の神楽ができていったといわれる。

 壱岐神楽は、その規模により、
幣神楽・小神楽・大神楽・大大神楽
四つに分けられる。




壱岐神楽の四大別
[幣神楽]
演奏曲目は、太鼓始、荒塩舞、神遊び、四本幣、二本幣、注連舞がある。
舞人二人、樂人二人で奉奏される。

[小神楽]
演奏曲目は、幣神楽に加えるに、真榊、野槌、鉾舞、八咫烏、篠、橘、
殿保賀比、神酒保賀比がある。
舞人二人、樂人二人は最低必要で、通常五、六人で奉奏される。

[大神楽]
演奏曲目は、小神楽に加えるに、四剣、二剣、四弓、二弓、五方、
神代語、折敷、神相撲、猿田彦、宇豆女、八散供米がある。またこの他に
番外曲目として、漁舞、豊年舞を加えて奏することもある。
舞人四人、樂人二人は最低必要で、通常八人で奉奏される。

[大大神楽]磐戸神楽ともいう)
壱岐神楽の中で最も厳粛・丁重なもので、特殊な神事に奏する。
演奏曲目は,大神楽に加えるに、湯立、御湯舞、思兼、太多女、於屋根、
手力男、阿知女がある。
舞人・樂人合わせて十二名以上で奏し、所要時間は七、八時間。


壱岐神楽の解説

太鼓始(たいこはじめ)

皇国の弥栄を寿ぎ、祭りの楽しさや神々の惠を願う歌を唱え、又、今日の
神楽の笛の音を合わせる事も兼ねた神楽神楽と云われています。

勧盃(かんぱい)
お神酒を戴き御神様と今日の祭りを共に喜び、御稜威を戴きます。

荒塩(あらしお)
これから神楽を奉奏する斎場・斎員を祓い清める神楽です。


神遊(かみあそび)
「遊び」とは魂を揺り動かすという意味で、音楽を奏で舞を舞い魂を呼び
入れる舞です。

四本幣(しほんべい) 
採り物の御幣を神聖視し、この幣の垂手の音に神秘な神の声を聞こうとす
る信仰が窺われる舞です。


二本幣(にほんべい)
御幣の起源を唱え、装束の神聖さと神々のご照覧と感応を祈る舞です。

注連舞(しめまい)
注連の起源を唱え、その徳を称え不浄を入れないと共に清浄を保ち、諸々
の災・厄を祓う舞です。

真榊(まさかき)
「神の寄る木」「神と人の間にある木」榊を讃え、又祭りをする人々が心
を合わせ最善を尽くし、更に斎場が四季折々の眺めを変え趣を異にする様
を讃える舞です。


野槌(のづち)
山祗神と野槌神の問答神楽で、榊を大切にしなければならないことを陳べ
五穀の神に感謝し、五穀豊穣を祈る舞です。

鉾(ほこまい)
鉾を採り四方を突き払い諸の災を退散させ、また鉾を揺り動かす事で「遊
び」鎮魂の神楽でもあります。

八咫烏(やたがらす)
神武天皇が東征の時、道案内として天照皇大神のお告げで飛来した建角身
命の御功績を讃える神楽です。


篠(ささまい)
篠の葉の音に神の言葉を聞く、鎮魂の舞です。

殿保賀比(とのほがい)

宮殿の安泰を寿ぎ且つその長久を祈る神楽です。

神酒保賀比(みきほがい)
酒の徳を讃え礼代の御神酒を献じて恩頼を蒙ろうとする舞です。

四剣(しけん)
剣の霊威を讃えると共に四方を切り攘い諸々の災禍を攘い退散させる神楽
です。

二剣(にけん
剣の霊威を讃え悪魔を切り攘い諸々の災禍を攘い退散させる舞です。


四弓(しきゅう)
神宝であり又呪物としての弓を神聖視し、その霊威を讃えると共に四方を
射攘い、諸悪災禍を退散させる神楽です。

二弓(にきゅう) 
弓と剣の霊威により、災いを払う鎮魂の神楽です。


五方(ごほう)
五方位を固め五行神を祀ると共に国体の本儀を瞭らかにせんとする神楽
です。


神代語(かみよがたり)
我国肇国の神話を語り、後段では吾が瑞穂の国を讃え教え諭す大諄辞を
奏上します。

神相撲(かみずもう)
国技・相撲の技を神前に演じ御照覧戴き、心身の強健息災を祈る神楽で
す。


折敷(おしき)
神の御照覧を祈る神楽です。

湯立行事(ゆだちぎょうじ)
お湯の霊威による清め払いの儀式です。

御湯舞(みゆのまい)
清め払うお湯の霊威を謝び奉る神楽です。


〔磐戸神楽〕
天の磐戸の神話にならい磐戸開の様を表した神楽です。(下の四つの神楽
を包含します。)

思兼(おもいかね)
太多女(ふとだめ)
於屋根(おやね)
手力男
(たぢからお)
阿知女
(あぢめ)

猿田彦(さるたひこ)
天孫降臨の際、天八チマタあめのやちまた・チマタは「道・四達の道・ちまた」
の意の漢字
の神業を演じ、猿田彦の大神の御神徳を讃える神楽です。


宇豆女(うずめ)
天孫降臨の際、天八チマタ(同上)の神業を演じ、天宇豆女神の御神徳を
讃える神楽です。

八散供米(やちくま)
剣の霊威により悪霊を切り払い、「うちまき」により諸々の邪気を払うと
いう神楽で、大大神楽納めの神楽です。



番外

豊年舞(ほうねんまい)
五穀豊穣・諸業の繁栄を感謝する舞です。
皆様に餅を撒きますので、頂かれてください。

漁舞(りょうまい)
海上安全・大漁満足、漁業の繁栄を祈る神楽です。


       
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    国指定重要無形民俗文化財(東京文化財研究所芸能部民俗芸能研究室)