電中研創立『50周年記念誌』に掲載されている、「松永翁が電中研
理事長時代に、職員に送られた書簡
」です。



 
  技ありて 未来あり
     人ありて 技あり 
A



 松永安左エ門が電中研をおこして50年。振りかえれば、それぞれの
時代のなかで、それぞれの人たちが研究所を支えてきた。また、時代の
波に揺れ動きながら、電中研が時代や社会に生かされながらきたことも
事実である。私達電中研は、そのことを感謝しながら、さらなる未来に
向けて技術を発信し、公益法人として電気事業をはじめ明日の暮らしと
社会に貢献していかなければならないのである。
 ここに一通の古い書簡がある。松永が理事長時代に電中研の全職員に
送ったものであり、自らの戒めとして、電中研の未来へ伝えておきたい。



  

  

  




     
  電力中央研究所に付き、
      僭越を顧みず、一筆す。
 予が二十四余年前、東邦産業研究所の所長と
なりし時、産業研究は、知徳の錬磨であり、も
って社会に貢献すべきであることを悟った。但
し科学の進歩は累積と推理に由り、無限の発達
を遂げる性質のものであり、十八・九世紀に入
り、はるかに人類は其面に躍動して蒸気利用の
発明、電気の発明、化学の発明、又は是等の応
用に革新的進歩を為した。近くは原子力、水素
の融合反応等、あるいは人工衛星に至るまで、
科学的進歩は無限に続くのである。
 併し利己的な人間性は、社会的には、なお四
千年前の哲人と比し、何らの進境を示していな
い。是は人間の悲劇である。
 諸子能くこれを知り、内面的な人間性の練磨
を、科学的な研究と共に続けられんことを祈る
ものである。

  一九五七年十月二十二日
           喜多見に於て
        
 松永安左エ門




       
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